あめのひのかみさま




 ぽつり、ぽつり、てんてんてん・・・。  
 まっかなビニールが雨をはじき、まあるいしずくが、傘をつぅっとつたって落ちていきます。
 まゆ子とおばあちゃんは、校舎からすこしはなれた、古い建物の前で立ち止まりました。
「ここだけは何も変わってないんだねぇ。」
 おばあちゃんがほうっともらしたため息は、うす暗い空に溶けました。
「おばあちゃん、この中に入るんなら、あたし帰る。おばけが出るって。」
「おや、そんなうわさ。まゆちゃん、ここにいるのはね、おばけじゃなくて、かみさまなんだよ。」
 かみさま。
 変なおばあちゃん。こんな気味の悪いところに、かみさまだなんて。
 まゆ子は早く帰りたかったのですが、おばあちゃんは一人で中に入っていってしまいました。これだから、雨の日はきらいなのです。

 まゆ子の小学校は、百年も前からある古い学校です。おばあちゃんもここに通っていました。広さは体育館の半分くらいで、木でできた床は、歩くたびにぎぃぎぃ鳴ります。
「おばあちゃん、帰ろうよ。」
 まゆ子は今にも泣き出しそうです。
 じゃらじゃら、じゃらじゃらっ
「きゃっ、かみなり!」
「ごめんごめん、うっかりおはじき落としちゃって。ここは音がよくひびくから。」
 おはじき?
 ころっ、ころっ、
 まゆ子の足元に、何かきらきら光るものが転がってきました。ビー玉をつぶしたような、平べったいガラス玉です。高く上げると光にすけました。あかくて、きらきら。まゆ子は、さっき傘の上ではじけた雨を、思い出しました。
「きれい。雨つぶみたい。これなぁに?」
 おばあちゃんの人差し指が一番手前の玉をはじくと、ガラス玉はつぅっとすべって、別の玉にぽつりとあたりました。
「ここはね、今はこんなだけど、昔は、雨の日のみんなの遊び場だったんだよ。」
 おばあちゃんはとおい目をして、いいました。
「かみさまが、いてね。」
 かみさま。
 あめのひの、かみさま。
「ここに来ると、時がとまるんだよ。ここには遊びのかみさまが住んでるんだって。」
 ものめずらしそうに、まゆ子は床の上のおはじきをいじっていました。ぎざぎざの面につめを当て、きゅきゅっとこすってみたり。重ねて積み上げてみたり。
「ふふっ、雨つぶ、積んじゃった。」
 指でつつくと雨つぶのタワーはくずれ、また、ころころっと転がっていきました。
 あっ!おばあちゃんのバッグの中、まだ何か入ってる。これは何?
 おばあちゃんは、くくっ、と笑いました。

 雨が、さぁさぁと、窓をなでていきます。

 おばあちゃんのしわくちゃな指にひもがからんで、いろんな形が生まれていきました。ほおをふくらませて息を吹き込むと、風船になってうかびあがりました。
 まゆ子はふしぎな気持ちで見ていました。

 まあるい風船は三つ、四つと増え、まあるい手のひらの上で踊りだしました。くるくる、くるくる、まあるいアーチを描いて、おばあちゃんの手の中にすい込まれていきます。
 くるくる、くるくる。
「おばあちゃんは昔、こうやって遊んでたの?」
「そうだよ。かみさまの、おかげでね。」
 小学生のおばあちゃん。まゆ子と同い年の、おばあちゃん。
「だからね、今日はかみさまに、今までありがとうって、お別れをしに来たんだよ。」
 この建物は、来月とり壊されることになっていました。パソコン教室をつくるのです。
「ほら、まゆちゃんも一緒に。」
 そういって、おばあちゃんは涙のういた目をとじ、そっと手を合わせました。
 おばあちゃんの手。しわしわの手。
 でも、ねぇ、おばあちゃん。まゆ子はお別れなんてしないよ。かみさまは、いなくなったりしないもの。だって。
「あめのひのかみさまは、おばあちゃんの手の中にいるんだよ。」
 おばあちゃんは、ゆっくり、涙を落としました。

 ねぇ、かみさま。
 まゆ子の手にも、来てくれるのかな。
 遊びもまほうもいっぱい知ってる、ふしぎなかみさま。
 ねぇ、
 あめのひのかみさま。