夢夜-MUYA- 第一話:11月葡萄




朽ちたものが好き。
もうどんなにあがいても元になんか戻らないから。
ずっと独り占めできる。

葡萄を一房
指で潰してはなぞる。
赤紫色の指先
ただ甘いだけのなまぬるい香り

ベルベットの泉に身を投げ出し溺れてみる。
赤紫が点々と染みて いつしか包み込むように

葡萄を一房
潰しては指でなぞる。
戻れない一本道。
足跡は右足の分だけ。

皮がはじけてとびだしたゼリーを、
実がよじれてはきだした種を、
なまぬるい甘みはどこまでも舌の上を這い
指に残ったざらざらはいつまでも消えない。

深い深い泉
湧き出して 染み出して どうしよう とまらない
思い出して止まらない
一粒の種のことが
あの 薄っぺらい皮のことが

葡萄を一房
どうか朽ちる前に
私が喜ぶ前に
見えないところへ連れ去って 一房の葡萄





イラスト