或る博士の部屋(脳が言うことをきかないのですよ)




ノツクをして入ると
そこは真白で静寂の広がる世界でした。
何故。
大抵の博士の部屋というのは
薄汚れた床にボルトだのネジだのが転がっていたり
机の上の試験管は緑色のあぶくを吐いていたり
動き出したロボツト達がスローなモォションで歯軋りを奏でたりしているものでしょう。
そして実際 この博士の部屋も例外ではなかったのです。
実際部屋は灰色で散らかっていましたし、嫌な機械音もしておりました。
何故でしょう。
それを私は瞬間、無音で白い簡素な部屋と見間違えたのです。
それどころか私はそれをシンプルで美しいとさえ思ったのです。
どうやら私の脳(思考回路)、もしくは眼と脳とを繋ぐ視神経に少々故障が生じた模様。
すみません。
まだ何処の誰それと自己紹介も済んでいない初対面の身ではありますが、
どうか この少々イカレた私の神経を
どれか あなたの作ったコォドと
交換してはいただけませんか。

そうして私は見たのです。
振り返った博士のお顔の左半分が割れて
赤と黄色のコォドに電気が走り、
銀の前歯を見せたのを。
その銀色は不思議にあやしく光り、
私に笑という字を連想させたのです。

申し遅れました。
私の名は道化師と申します。
どうぞピエロとでも呼んでくださいな。
どうぞ私を笑ってくださいな。

どうぞ助けてくださいな。
顔面神経が作動しないのですよ。

あなたは仰いました。
瞳のランプを赤色に光らせて仰いました。
メイクをとったらいかがですかと。

そして私はピエロの仮面をしていたことを知り、
それを外すことでようやく安心して泣くことができるようになったというわけです。