死体-桃U-




人間とはなんてたくましいのだろう。
一個の死体を前にしてそうつぶやくのが日課になった。

彼が死んだ。
私には彼しかいなかった。
殺す覚悟ができたほどに愛してた。

彼が死んだことに気づかなかった。
腐臭が漂ってくると洗濯バサミで鼻をつまんだ。
ウジがわいてくると白い布で目隠しをした。
結局骨が見えるまで彼が死んだことから逃げていた。

みんなはちゃんと骨を見つけていたんだね。
私は残った肉ばかりに執着していたから。
私だけ気づくのが 何ヶ月も何年も こんなに遅れてしまった。

お墓を作ってあげようか。
いやいや 残った肉と骨だけでもホルマリンに漬けて飾ろう。
いつか緑色の中にあぶくが立ちのぼったら
ガラスを割って再生するのを待ってる。
流れ出たホルマリンを
拾い集めてアルコールで割るよ。
何年でも。いつまでも待ってるよ。
記憶だけは美しく いつまでも試験管の中で光っているから
枕元に並べて愛撫するよ。
愛してるよいつまでも。
愛してあげるよ いつかが来たら。
いつの日か再生できるのかな。

どうしてこんなにどうにもならなくて、
それなのにこんなにも忘却しながら生きている。
明日になったら忘れて目覚め、
夜になってもそうそう思い出すことはなく。


家が焼けているのよ。 消火器はどこ? 手の施しようもない。


桃の香りをまといながら
そんなに私に飲ませたい?
毒にまみれたそんな果実を
よくもみんな 見せびらかせると思って

今まさに焼け落ちていくその家の中で
私はあと何年生き続けるのだろう。
切り捨てて、もうわずかしか残っていない住人。
それでも私はたくましいから。



愛してるよいつまでも。
愛してあげるよ いつかが来たら。
いつの日か再生できるのかな