眼 |
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あれから一年が経った。 コタ達島民は本土での新しい生活を始めていた。 「コタ、そろそろ友達と約束の時間なんじゃないのか。」 ベランダで鉢植えをいじっていたオネが声をかける。 「わかってるよ、今行くとこ。」 セーブしますか? はい いいえ 「はい」を選んでゲーム機の電源を落とすと、カバンを掴んで外へ出た。 エレベーターを待っている時間がもったいなくて、階段で一気に一階まで駆け下りた。 小学校の校庭にはすでに三人の少年が集まっていた。 「あとはカズと佐々木だけだな。」 校庭にはもうずいぶん人が集まってきていて、ざわめきと太鼓の音が少年達の声を掻き消していた。 コタはふと、金魚すくいの屋台の前にいる男女に眼を遣った。 暗闇にぼんやりと浮かび上がった女の頭に、真っ赤な炎が揺れていた。 「タケ、あの人頭に火がついてる。」 「え?」 隣にいた少年は背伸びをして、コタが指差した方を見た。 「バカ、よく見ろよ。後ろにちょうちんがついてるだけだろ。」 言われて、もう一度コタも眼を凝らした。 なるほど、確かに燃えているのは女の髪ではない。 屋台の赤いちょうちんが、女の頭で見え隠れしているだけだった。 ふと、イヨとオホロのことが頭をよぎった。 しかし、どんなに二人の顔を思い出そうとしても、あの屋台の男女のように、もやがかかってぼやけてしまう。 この眼もすっかり悪くなったものだ。 もう脳裏に二人の姿を見ることもできない。 | ||
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